【行政書士が解説】遺言書作成で知っておくべき「遺留分」の基礎知識

すずき行政書士法務事務所は横浜市中区石川町の元町商店街に事務所を構えており、事業承継に伴う許認可申請、法人設立、遺言書作成などのお手伝いをしています。

今回のコラムは、「遺言書作成で知っておくべき「遺留分」の基礎知識について」です。

目次

はじめに

中小企業の事業承継では、誰に株式を承継させるかが会社の将来を大きく左右します。

後継者に株式を集中させるために遺言書を作成するケースは多いのですが、そこで見落とされがちなのが「遺留分(いりゅうぶん)」の問題です。遺留分への配慮が不足していると、せっかく作成した遺言書の内容がそのまま実現しないことがあります。

本コラムでは、経営者の方が知っておきたい「遺留分」の基本ポイントをわかりやすく解説します。

遺留分とは

遺留分とは、法律で定められた「一定の相続人が最低限受け取れる取り分」のことです。

遺言書で財産の分け方を自由に指定できるとはいえ、配偶者や子などの近しい家族には、最低限の取り分が保障されています。

遺留分が認められる相続人

配偶者、子、直系尊属(父母など)
※兄弟姉妹には遺留分はありません。

遺留分の割合

相続人の構成によって異なりますが、代表的なケースは次のとおりです。

配偶者+子:相続財産の1/2が遺留分(配偶者と子にそれぞれ1/4づつ)
子のみ:相続財産の1/2(子が2人のときはそれぞれ1/4づつ)
配偶者のみ:相続財産の1/2
直系尊属のみ:相続財産の1/3

遺留分を侵害された相続人は、後継者などの受遺者に対して「遺留分侵害額請求」を行うことができます。

以前は「遺留分減殺請求」という名称で、請求内容は「現物財産の返還」でしたが、2019年の民法改正により「遺留分侵害額請求」となり、請求の内容は「金銭の支払い」が原則となりました。

遺留分の計算例

なぜ株式承継で遺留分が問題になるのか

事業承継では、後継者に株式を集中させることが多いため、他の相続人の遺留分を侵害しやすいのです。特に注意したいのは、自社株の評価額が高い場合です。遺留分における自社株の評価は、あくまでも時価評価で計算されるため、想定以上に高額となるケースが少なくありません。

その結果、

  •  遺留分侵害額が大きくなる
  •  後継者が多額の金銭を支払う必要が生じる
  •  承継直後の資金繰りが悪化する
  •  最悪の場合、株式を手放す事態になる

といったリスクが生じます。

遺言書を作成しても、遺留分侵害額請求によって遺言内容が実現しないことがあるため、事前の対策が不可欠です。ただし、遺言書の内容が相続人の遺留分を侵害している場合でも、その遺言書自体は有効となる点は気を付けてください。

なお事業承継においては、「事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例」がありますが、これについては別のコラムで解説いたします。

よくあるトラブル事例

事例①:長男に株式100%を遺贈した結果、次男から遺留分請求された
社長が「会社は長男に継がせたい」と考え、株式をすべて長男に遺贈。しかし、次男が遺留分侵害額請求を行い、長男は多額の金銭を支払うことになった結果、会社の資金繰りが悪化し、経営に支障が出てしまった。

事例②:株価が想定以上に高く、遺留分侵害額が膨らんでしまった
生前に株価評価をしていなかったため、相続発生後に高額の評価額が判明。後継者が支払うべき遺留分侵害額が大きくなり、遺言書の内容が実現困難になってしまった。

事例③:遺言書があっても家族間の感情対立で紛争に発展してしまった
遺留分請求は「権利」ですが、実際には家族間の感情が大きく影響します。事前の説明や合意形成が不足していたため、遺言書があっても紛争に発展してしまった。

遺留分トラブルを回避するためのポイント

株式承継における遺留分トラブルは、事前の準備で大きく減らすことができます。

①自社株の評価額を把握する
現在の株価を知ることが重要です。評価額が高いほど遺留分侵害の可能性が高まるため、早めの確認が必要です。

②遺留分に配慮した遺言書を作成する
「他の相続人への代償金の記載」や「遺留分を侵害しない財産配分」、「公正証書遺言による明確な意思表示」など、遺留分を踏まえた設計が求められます。

③生前贈与・持株会社化などの株価対策
税理士などと連携し、株価を適切にコントロールすることで遺留分リスクを軽減できます。

④生命保険の活用
後継者が遺留分侵害額請求に備えるための資金を確保する方法として有効です。

⑤家族への事前説明・合意形成
遺留分トラブルの多くは「感情」が原因です。経営者の想いを家族に伝え、理解を得ることが紛争防止につながります。遺言書に「付言事項」を記載して、感情的な対立を防ぐことも大切です。

まとめ

株式承継では、遺言書を作成するだけでは不十分で、遺留分への配慮が不可欠です。遺留分侵害が発生すると、後継者の資金負担が大きくなり、承継後の経営に影響を及ぼすことがあります。

早めの準備と専門家への相談により、円滑な事業承継と家族の安心を両立させることができます。

目次